2026年春、市場では「高配当バリュー株に注目が戻ってきた」という声が増えています。AI・半導体関連銘柄の値動きが一服するなかで、配当利回りの高い日本株を見直す動きが出ています。
でも、私はこのニュースを聞いて少し複雑な気持ちになります。
高配当株投資は、相場のテーマが自分に向いたときに始めるものではないと考えているからです。「今は高配当バリューが熱い」という空気に乗って買うのも、「AI株が盛り上がっているから高配当株は退屈」という空気に押されて売るのも、どちらも長期投資の原則からは外れています。
どの銘柄を選ぶかの軸は、相場のテーマではなく、企業の財務と配当継続力にあります。今の利回りだけで判断していませんか?
「利回り4%以上を基準にスクリーニングして銘柄を選ぶ」——これは一つの合理的なアプローチです。私自身もスクリーニングの入り口として利回りを使っています。ただ、高配当株投資を続ける中で気づいたことがあります。
同じ「高配当株」でも、“今の利回りが高い株"と"将来の実質利回りが高くなる株"は、性質がまったく異なるということです。
この違いを意識せずに投資していると、10年後に「あのとき別の銘柄を選んでいれば……」と思うことになるかもしれません。
この記事でわかること
- 相場のテーマが変わっても、高配当株を選ぶ基準が変わらない理由
- 連続増配株とは何か、日本での代表的な事例
- 「今の利回り」と「将来の実質利回り(YOC)」の違いを数字で理解する
- 高配当株と連続増配株を目的・時間軸に応じて使い分ける考え方
- 増配株を選ぶ際にチェックすべき着眼点(財務健全性・配当性向・業績成長)
テーマ株ブームのたびに問われること
「高配当バリューに注目が戻ってきた」という記事が出ると、「じゃあ今が買い時か」と思う人が増えます。逆にAI・半導体ブームのときは「高配当株は古い」という空気になりました。
どちらも、相場の空気が投資判断に混じり込んでいる状態です。
高配当株投資の本質は、「配当という形で利益を継続的に還元できる、財務が安定した企業を長く持つ」ことです。AI株が上がっているかどうかは、この判断とまったく関係がありません。
私が気をつけているのは、「テーマが自分に向いてきたから買う」という動きをしないことです。高配当バリューに注目が集まっているタイミングで焦って買うよりも、自分の基準(利回り・財務・増配継続性)をクリアした銘柄を、テーマに関係なく淡々と積み上げる方が、長期的な結果は安定します。
では、その「基準」とは何か。連続増配株という考え方から整理します。
連続増配株とは何か
連続増配株とは、文字通り毎年継続して配当金を増やし続けている企業の株式です。
たとえば日本では以下のような銘柄が知られています。
| 銘柄 | 証券コード | セクター | 連続増配(参考) |
|---|---|---|---|
| 花王 | 4452 | 化学・日用品 | 36期(日本最長クラス) |
| SPK | 7466 | 自動車部品商社 | 28期前後 |
| 三菱HCキャピタル | 8593 | リース | 27期前後 |
| リコーリース | 8566 | リース | 26期前後 |
| ユー・エス・エス | 4732 | 中古車オークション | 26期前後 |
| KDDI | 9433 | 通信 | 24期前後 |
| リンナイ | 5947 | 住宅設備(給湯機器) | 24期前後 |
| 沖縄セルラー電話 | 9436 | 通信(沖縄) | 24期前後 |
| ニトリホールディングス | 9843 | 家具・インテリア小売 | 22期前後 |
※連続増配年数は各社のIR情報・決算短信を必ずご確認ください。毎年の業績次第で継続・変動があります。本記事の数値は執筆時点(2026年4月)の参考値で、銘柄の推奨を意図するものではありません。
各社の事業概要
それぞれの企業がどのようなビジネスで安定したキャッシュフローを生み、長期増配を続けてこられたのかを簡単に整理します。
- 花王(4452):ヘアケア・スキンケア・洗剤などの日用品最大手。ブランド力と広い販売網を背景に、景気に左右されにくい安定収益が長期増配を支えています。
- リコーリース(8566):オフィス機器を中心に、医療・産業機器など幅広い分野でリース事業を展開。長期契約による収益の見通しやすさが強み。
- SPK(7466):自動車補修部品の卸売を中心とする独立系商社。海外売上比率も高く、ニッチトップの地位を持ちます。
- 三菱HCキャピタル(8593):三菱UFJグループの大手総合リース会社。航空機・不動産・再生可能エネルギーなど分野が広く、海外展開も積極的。
- ユー・エス・エス(4732):中古車オークション会場の国内最大手。プラットフォーム型ビジネスでスイッチングコストが高く、参入障壁の高さが安定収益に直結しています。
- リンナイ(5947):給湯器・コンロなど住宅設備機器の大手。海外売上比率も高く、住宅関連の安定需要を背景に増配を続けています。
- 沖縄セルラー電話(9436):KDDIグループの沖縄地区通信会社。地域シェアが高く、安定した収益基盤を持つ通信会社の代表例。
- KDDI(9433):au・UQモバイル・povoを展開する総合通信大手。通信事業の安定収益に加え、金融・エネルギーなど非通信事業の比率も拡大中。
- ニトリホールディングス(9843):「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズで知られる家具・インテリア小売最大手。SPA体制(製造から販売まで自社一貫)による高い利益率が長期増配を支えます。
これらの企業に共通するのは、景気サイクルの影響を受けにくいビジネスモデル、または独自のポジションによる高い参入障壁を持っている点です。連続増配の年数だけを見るのではなく、なぜその企業が増配を続けられているのかを理解することが、長期保有の判断材料になります。
3つの要素のうち、どれか1つだけが強くても長期増配は続きにくく、3要素が重なる企業ほど安定して増配を継続しやすいと考えています。
米国では「配当貴族(Dividend Aristocrats)」として25年以上連続増配の企業群が定義されており、ジョンソン・エンド・ジョンソンやコカ・コーラなどが有名です。日本でもここ数年、連続増配の継続年数を意識した投資が注目されるようになっています。
連続増配を続けられる企業には共通した特徴があります。業績が安定していて、過剰な借金を抱えておらず、株主への利益還元を経営方針として明確に位置づけていることです。これは、長期投資家にとって重要なシグナルになります。
「今の利回り」だけ見ると見えないもの
高配当株投資で使われる利回りの計算式は以下のとおりです。
配当利回り(%)= 年間配当金 ÷ 現在の株価 × 100
この計算式が示す利回りは、あくまで"今この瞬間の利回り”です。
ここで一つ、考えてみてください。
10年前に株価1,000円・配当金30円の銘柄を買った人は、今どのくらいの実質利回りを得ているのでしょうか?
仮にその銘柄が毎年5%ずつ増配を続けたとすると、10年後の配当金は次のように計算できます。
30円 × 1.05の10乗(= 5%増配を10年続けた場合)≒ 48.9円
買ったときの株価は1,000円でしたから、実質利回りは約4.9%になります。
最初は3%だった利回りが、10年保有するだけで実質5%近くまで上がっている——これが「YOC(Yield on Cost:取得コスト対利回り)」という考え方です。
さらに20年後まで同じペースで増配が続いたとすると:
30円 × 1.05の20乗(= 5%増配を20年続けた場合)≒ 79.6円
実質利回りは約8%近くになります。
一方、今の利回りが高い(たとえば5%)でも増配がない銘柄は、20年後も同じ5%のままです(株価変動は除く)。長期で見ると、増配の複利効果は非常に大きくなります。
数字だけでは実感しにくいですが、図にしてみると「最初は低い利回りでも、増配が続くと10年付近で高配当株を逆転する」という関係がはっきりわかります。これがYOCの本質です。
高配当株と連続増配株:どちらを選ぶべきか
この問いへの答えは、「どちらか一方が正解」ではなく、目的と時間軸によって使い分けるのが合理的だと考えています。
今のキャッシュフローが必要な人には「高配当株」
すでに資産を築いており、毎月・毎年の配当収入を今すぐ生活費や趣味に使いたい人には、現在の利回りが高い銘柄を選ぶ方が合理的です。
配当金生活の必要元本の計算については、配当金生活に必要な資産額を計算するの記事で詳しく解説しています。
資産形成期の人には「連続増配株」も有力な選択肢
まだ投資から引き出さずに積み上げていく段階にある人、特に30〜40代の長期投資家にとっては、今の利回りが多少低くても増配力のある銘柄を選ぶことが、10年・20年後の実質利回りを高める戦略になり得ます。
NISA成長投資枠を使った高配当株投資の考え方については、新NISAの成長投資枠で高配当株を買う戦略の記事も参考にしてください。
以下の表に、2つのアプローチの特徴を整理します。
| 項目 | 高配当株(高利回り重視) | 連続増配株(増配力重視) |
|---|---|---|
| 今の利回り | 高い(4%〜) | やや低いことが多い(2〜3%) |
| 将来の実質利回り | 横ばい〜低下リスクあり | 増配次第で大きく上昇 |
| 向いている人 | キャッシュフローを今すぐ欲しい | 長期で育てていきたい |
| 主なリスク | 減配・無配リスク | 増配ペース鈍化・増配停止 |
増配株を選ぶ際の着眼点 ── テーマより財務を見る
連続増配株を選ぶ際に私が意識しているポイントを整理します。ここで重要なのは、これらの基準は相場環境や注目テーマによって変えないということです。「今は景気が良いから配当性向が高くても大丈夫」「このセクターが旬だから多少財務が弱くても」という例外を作ると、基準が形骸化していきます。
1. 配当性向は適切か
配当性向とは「利益のうち何%を配当に回しているか」を示す指標です。
配当性向(%)= 1株あたり配当金 ÷ 1株あたり当期純利益 × 100
配当性向が高すぎる(たとえば90%以上)場合、業績が少し悪化しただけで減配に追い込まれるリスクがあります。逆に30〜50%程度であれば、増配を継続する余力が十分あると判断できます。
2. 増配の原資は「業績の成長」か
毎年増配しているように見えても、その原資が「利益の成長」でなく「配当性向の切り上げ」だけで達成されている場合は注意が必要です。業績が横ばいのまま配当性向だけが上昇していれば、いずれ限界を迎えます。
増配を長期で続けられる企業は、利益そのものが成長しているか、安定したビジネスモデルを持っていることが条件です。
3. 業績の安定性を確認する
過去10年の売上・営業利益のトレンドを確認します。景気サイクルに強く依存するシクリカルな業種よりも、インフラ・リース・日用品など需要が安定しているセクターの方が、連続増配を維持しやすい傾向があります。
4. 財務健全性(有利子負債・自己資本比率)
過剰な借り入れを抱えていないかを確認します。自己資本比率や有利子負債の水準を見ることで、増配余力と将来のリスクを判断できます。
私のスクリーニングでは、自己資本比率60%以上(理想は70%以上)を一つの目安にしています。ただし銀行・保険・不動産など、ビジネスモデル上どうしても自己資本比率が低くなる業種にはこの基準をそのまま当てはめず、業種特有の指標(銀行ならTier1比率など)で判断しています。
この基準の根拠や運用方法は、高配当株の銘柄選定3ステップの記事で詳しく解説しています。
5. 配当金を「減らしていないか」の確認
連続増配株の定義は「増配を続けている」ことですが、私がより重視しているのは「配当を減らしていない」という事実です。
増配ペースが鈍化することはあっても、維持または増額を続けてきた企業は、株主への利益還元を経営の優先事項として位置づけている可能性が高い。この姿勢こそが、長期保有の安心感につながります。
逆に過去に減配や無配転落の実績がある銘柄は、たとえ今は利回りが高くても、財務的なストレスがかかったときに同じことが起きやすいと考えています。
補足:「累進配当株」という別の視点
連続増配株が過去の実績で評価する考え方なのに対し、「累進配当株」は会社が「減配せず、配当を維持または増配する」と方針として宣言している銘柄を指します。「毎年必ず増配」ではなく、「最低でも前年と同額、業績が良ければ増配」という考え方です。三菱商事・伊藤忠商事・丸紅などの総合商社や、NTT・三井住友信託などで採用が進んでいます。
- 連続増配株:実績ベース(過去に毎年増配してきた)
- 累進配当株:方針ベース(会社が「減配せず、維持または増配」と公約している)
両者は重なる部分もありますが、軸が異なります。商社株が累進配当を打ち出す背景や、IR資料での確認方法、方針撤回リスクの読み方については、累進配当株という選択肢:商社株が注目される理由と、減配しない約束の読み方で別途整理する予定です。
まとめ:相場のテーマより、自分の基準を持つ
今の利回りだけで銘柄を選んでいると、長期的に見て機会損失が生まれる可能性があります。そして相場のテーマに合わせて選ぶ基準を変えていくと、いつまで経っても「ぶれない軸」が作れません。
連続増配株が持つ「時間をかけて実質利回りが育っていく」という性質は、長期投資家にとって強力な武器になります。ただしそれは「連続増配株だけを買えばよい」という話ではなく、今のキャッシュフローが必要かどうか、投資の時間軸はどのくらいか、という自分のライフプランに合わせた使い分けが前提です。
「高配当バリューが旬」というニュースが出ても、「AI株の方が上がる」という話が出ても、見るべきポイントはいつも同じです。
- 配当を継続的に出し続けられる財務体力があるか
- 増配の原資が業績成長から来ているか
- 配当を過去に減らしていないか
まずは自分のポートフォリオを見直して、「今の利回りで選んだ銘柄」と「増配力で選んだ銘柄」のバランスを確認してみることをおすすめします。どちらが多い・少ないが良い、という話ではなく、意図を持って組み合わせているかどうかが大切です。
何かの参考になれば幸いです。ご自身のライフプランに合わせて判断してみてください。