「4%ルールで取り崩していけば大丈夫」と聞くけれど、自分の資産額・生活費・退職年齢に当てはめたとき、本当に成功率が何%なのかは誰も教えてくれません。
いざ自分の数字に当てはめようとすると、こんな壁にぶつかります。
- 自分の数字を入れた「取崩し成功率」を一度も見たことがない
- 4%ルールが自分に当てはまるのか、なんとなく不安なまま放置している
- 暴落・インフレ・現金バッファを同時に考慮した試算を、Excelで組むのは面倒すぎる
この壁は、自作のモンテカルロシミュレーターで越えられます。自分の資産額と取崩し条件を入力するだけで、多数の未来シナリオから成功率を算出できます。 ブラウザで動く・インストール不要・完全無料。スライダーを動かすだけで、条件ごとの成功率の変化が即座に見えます。
このツールが採用しているのは、過去の歴史をなぞるトリニティスタディと違い、乱数で「ありうる未来」を大量生成して確率を出すモンテカルロ法。だから、自分の条件に合わせた成功率を出せます。本記事では設定項目の意味と結果の読み方、そして「毎年回し続ける」という本来の使い方を順に確認していきます。
このツールはClaude Codeを使って実装した無料公開ツールです。コードはオープンにしているので、改造して自分用にカスタマイズすることもできます。
まずはデフォルト設定のまま「シミュレーション実行」を押してみてください。 そのうえで、以下の説明は気になった設定項目だけ拾い読みすればOKです。
デフォルトは「投資資産3,000万円+無リスク資産1,000万円(合計4,000万円)を、年160万円ずつ取り崩す」という設定です。年160万円は総資産4,000万円のちょうど4%にあたります。
結果が出たら、まずこの3つを見る
細かい設定に入る前に、結果画面のどこを見ればいいかだけ押さえておきましょう。
① 成功率 — いちばん大きく表示される数字です。80%程度でも過度に心配する必要はありません。 これは「一度決めた取崩し額を、何があっても最後まで変えなかった場合」の確率だからです。実際には毎年見直せるので、残り20%のシナリオの多くは途中で軌道修正できます(詳しくは後述 )。
② 実質中央値 — 最終時点の資産を、インフレを差し引いた購買力ベースで見た真ん中の値です。ここが初期資産の数倍に膨らんでいたら、取崩し額が少なすぎるサインかもしれません。使わずに増やし続けて人生を終えるのも、それはそれで機会損失です。取崩し額を増やして成功率がどう動くか試してみてください。
③ 失敗シナリオ分析 — 失敗した回の「中身」を見ます。失敗の多くが「10年間の長期低迷」のような、歴史的にはめったに起きていない相場に依存していることが少なくありません。その場合、体感的なリスクは成功率の数字ほど高くない可能性があります。ツールは長期低迷を含まない失敗パターンも別に集計しているので、それを見れば「よくある失敗」と「極端な失敗」を切り分けられます。
まだリタイア前・積立中の方も使えます。投資資産と無リスク資産に「リタイア予定時点の想定額」を入れれば、将来の取崩し計画の成功率を先取りして確認できます。
なぜこのツールを作ろうと思ったか、4%ルールの「守りすぎ」問題とモンテカルロの背景を知りたい方は、先にこちらの記事 をどうぞ。
この記事の位置づけ:本記事は取り崩しシミュレーションツールの具体的な使い方に特化しています。4%ルールの限界やモンテカルロ法の考え方といった理論背景は「4%ルールは守りすぎ?モンテカルロシミュレーションで考える取り崩し戦略 」で解説しています。
この記事でわかること
- 自分のFIRE計画の現在の成功率を、数値で把握する方法
- 取崩し額・現金バッファ・為替条件を変えたときの成功率の変化の見方
- 「失敗」の中身を分解し、どれくらい深刻・特殊な失敗なのかを見極める方法
- 「成功率80%で十分」と言える理由と、ガードレール戦略での運用方法
1. 設定項目の解説
ここからは画面の設定パネルを上から順に見ていきます。各表は「項目名 → 何を意味するか」の対応表として読んでください。
【設定①】資産・取崩し設定
設定①には似た名前の項目が並ぶため、先に整理しておきます。「取崩し方式」は毎年いくら取り崩すか(金額の決め方)、**「取崩し・配分の方式」はその金額をどちらの資産(投資資産/現金・国債)から出すか(資産の動かし方)**を決める設定です。別の軸の設定なので、両方を自由に組み合わせられます。
資産の金額
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 投資資産(リスク資産)(万円) | 株式・投資信託などリスク資産の金額。積立中の方はリタイア予定時点の想定資産額を入力。 |
| 現金・国債(無リスク資産)(万円) | 預金・個人向け国債など、値動きのない資産の金額。入力欄の下に投資資産との比率と「年間取崩額の何年分か」が表示されます。 |
投資資産と現金・国債の金額欄は、矢印では10万円ずつ増減し、直接入力では1万円単位の金額も入力できます。
取崩し方式(いくら取り崩すか)
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 取崩し方式 | 定額:毎年同じ額(インフレ調整あり)を取り崩す。一般的な4%ルールに対応する方式で、初年度の金額を決めたら以後はインフレ分だけ調整します。 定率:毎年の年初総資産(投資資産+無リスク資産)×取崩率で取り崩す。残高連動なので資産枯渇リスクが低い一方、生活費が年により変動します。 |
| 年間取崩額(万円/年) | 定額モードのみ。例:「160」=年間160万円。 |
| 年間取崩率(%) | 定率モードのみ。「毎年の年初総資産の4%」を取り崩すなら「4」。初年度の取崩額を以後インフレ調整する一般的な4%ルールとは別の方式である点に注意してください(初年度の金額は同じでも、2年目以降の動きが変わります)。 |
| 最低取崩額(万円/年) | 定率モードのみ。残高が減っても最低限これだけは取り崩す金額。生活の最低ラインを守る設定。 |
💡 考え方のヒント: 固定費(住居費・食費)は定額モード、娯楽費や旅行費は定率モードのように使い分けるのが現実的です。
取崩し・配分の方式(どちらの資産から出すか)
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 取崩し・配分の方式 | リバランス型:年初に取り崩し、残った資産を開始時の比率へ戻します。当初決めた資産の割合を保ち続ける投資法で、値上がりした資産を売って値下がりした資産を買い足すことになります。 現金バッファ型:前年の年間リターンが発動ライン以下だった年だけ、現金・国債(無リスク資産)から取り崩します。 |
| 現金バッファ発動ライン(−X%) | 現金バッファ型のみ表示。 前年の年間リターンがこの値以下だった年に、現金・国債(無リスク資産)から取り崩します。 デフォルトは−20%。1年目は「前年」の実績がないため対象外です。 |
💡 リバランス型を選ぶときの注意: この方式は暴落の翌年に投資資産を買い増します。理屈のうえでは目標配分を保つ動作ですが、実際には「下がっているものを買う」判断であり、心理的な負担があります。また、税金・売買手数料は計算に含めていません。
成功判定
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 成功判定金額(万円) | 総資産(投資+無リスク資産)が毎年末にこの額を下回った場合を「失敗」と判定します。デフォルトは0円。「最低1,000万円は残したい」なら1000と入力。基準を0円にした場合、総資産がちょうど0円になった年も失敗扱いです(基準を正の金額にした場合は、ちょうどその金額なら成功側)。一度失敗と判定されたシナリオは、その後に相場が回復しても失敗のままです。 |
【設定②】シミュレーション設定
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| シミュレーション期間(年) | 40歳リタイア→100歳想定なら「60」年 |
| シミュレーション回数 | 1万回(高速)・10万回(標準)・100万回(高精度)。デフォルト10万回。 |
【設定③】利回り設定
投資資産(リスク資産)の期待リターンとリスク、現金・国債(無リスク資産)の利回りを設定します。
冒頭の「指数プリセット」ボタン(S&P500/オルカン)を押すと、期待リターン・リスクに加えて為替設定(外貨比率・相関係数)まで一括で反映されます。反映後も数値は手動で調整できます。
| 項目 | デフォルト値 | 説明 |
|---|---|---|
| 投資資産の期待リターン(%) | 11.69% | S&P500指数の1928〜2024年の算術平均11.79%(Damodaran教授のデータ)から、投資信託の信託報酬(年0.1%を想定)を差し引いた値 |
| 投資資産のリスク(標準偏差%) | 19.50% | 同データのリターンのブレ幅(信託報酬はリスクにはほぼ影響しないため未調整) |
| 現金・国債(無リスク資産)の利回り(%) | 1.87% | 年率・税引前。プリセットボタンで「普通預金0.4%/個人向け国債1.87%/10年国債2.84%」を入力できます。 |
⚠️ 利回りの前提: 個人向け国債 変動10年は年2回見直される変動金利で、1.87%はあくまで現在の利率です。10年国債2.84%も、満期保有・同水準で再投資を続ける前提の値です。シミュレーションでは入力した利回りが期間中ずっと一定と仮定して計算します。
💡 信託報酬について: 実際に投資するのは指数そのものではなく投資信託(インデックスファンド)なので、信託報酬の分だけ指数より手取りリターンが下がります。eMAXIS Slimシリーズなど主要な低コストファンドの信託報酬は年0.1%以下が中心のため、0.1%控除は十分保守的な想定です。
💡 オルカン(全世界株式)で運用している場合: 「オルカン」ボタンを押すと、期待リターン9.9%・標準偏差17.0%(いずれも信託報酬控除後)と、為替設定の外貨比率95%・相関係数0.2が自動反映されます。
【設定④】インフレ設定
| 項目 | デフォルト値 | 説明 |
|---|---|---|
| インフレ率(平均%・標準偏差%) | — | 日本の近年のインフレを踏まえて設定 |
| デフレ時の取崩額 | 減らさない | インフレ率がマイナスになった年に、取崩額を減らすか据え置くかを選びます。 |
【設定⑤】為替設定
外貨建て資産がある場合に為替変動を反映できます。
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 外貨建て資産比率(%) | S&P500に全投資なら100%、オルカンなら日本組入分を除いた95%が目安 |
| 為替変動率(平均%・標準偏差%) | 円安予想なら+、円高予想なら−。デフォルト平均0%・標準偏差10% |
| 株式リターンとの相関係数 | 「株高=円安」の傾向を反映。S&P500なら約0.3、オルカンなら約0.2が目安 |
いずれも利回り設定の「指数プリセット」ボタンを押せば自動で反映されるため、通常は手動入力の必要はありません。
💡 ポイント: 為替あり・なしの両方でシミュレーションして比較するのがおすすめです。
2. 結果の読み方
シミュレーションを実行すると、画面下部に成功率・グラフ・詳細な統計・失敗シナリオの分析が表示されます。順に読み方を説明します。
2.1 まず見る3つの数字
| 指標 | 見方 |
|---|---|
| 成功率 | 設定期間中、一度も基準割れしなかったシナリオの割合。80%台あれば十分(理由は後述)。 |
| 名目中央値 | 最終年の資産額を小さい順に並べた真ん中(額面)。 |
| 実質中央値 | 各シナリオの最終資産を、そのシナリオで実際に発生した累積インフレで割り引いた実質額を計算し、その中央値を取ったもの(購買力ベース)。名目中央値をあとから割り引いた値ではありません。 |
成功率と中央値は別の指標です。好調なシナリオでは資産が大きく増えるため、一定数が失敗していても中央値が初期資産を上回ることがあります。矛盾ではありません。
2.2 グラフの読み方
- 資産推移(パーセンタイル帯): 上位10%・上位25%・中央値(名目・実質)・下位25%・下位10%のバンド表示。上が「運が良い未来」、下が「運が悪い未来」です。中央値だけでなく、下位側がどこまで沈むかを必ず確認してください。
- 年別成功状態率: 各年まで一度も基準割れせずに残っているシナリオの割合。急激に下がっている時期が「失敗が集中しやすい時期」です。
2.3 詳しい数字は「シミュレーション統計サマリー」で
画面下の「シミュレーション統計サマリー」は最初は折りたたまれています。タップして開くと、最終資産分布(名目・実質の上位10%〜下位10%)、選択した方式に応じた無リスク資産の統計、計算モードなどの詳細を確認できます。普段は見なくてOKですが、数字の根拠を細かく確認したいときに開いてください。
統計サマリーの「無リスク資産」の項目は、選んだ方式によって内容が変わります。リバランス型では「目標配分比率」「リバランス発生年の割合(買増し/移動の内訳つき)」「実施年の金額中央値」が表示され、暴落後に買い増しを迫られる頻度が分かります。現金バッファ型では「期末の配分比率」「無リスク資産が尽きたシナリオの割合」「発動条件」などが表示されます。期末の配分比率は、最終年まで成功したシナリオだけを集計しています(失敗して総資産が0円になったシナリオでは比率を計算できないためです)。
2.4 取崩し計画の負担を数字で確認する
「取崩し計画の負担確認」には、以下が表示されます。
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| 当初取崩率(総資産ベース) | 初年度の取崩額 ÷(投資資産+無リスク資産)。 |
| 当初取崩率(投資資産のみ) | 無リスク資産を除いた、投資資産だけを分母にした参考値。 |
| 初期総資産は何年分か | 運用益もインフレも考慮しない、単純な「資産 ÷ 年間取崩額」。 |
| 取崩額を変えた場合の成功率 | 定額モードのみ表示。現在の取崩額を80%〜120%(5段階)に変えたときの成功率を比較。 |
感応度比較(80%〜120%)は、同じ市場・インフレ・為替の乱数シナリオを使い、取崩額だけを変えて成功率を出しています。初期の投資資産と無リスク資産の金額は現在の設定で固定したまま比較するので、「取崩額を10%下げたら成功率はどれくらい改善するか」「10%増やしたら急に悪化しないか」を、他の条件を変えずに確認できます。なお感応度比較は計算量の都合上、最大2万シナリオの標本で計算しています。シミュレーション回数を10万回・100万回にした場合、表の「現在額」の成功率は上部の成功率とわずかにずれることがありますが、標本誤差によるもので異常ではありません。
2.5 「失敗の中身」を分解して読む
ここがこのツールの特徴です。成功率という1つの数字だけでは、「どんなときに失敗するのか」「その失敗はどれくらい深刻・特殊なのか」まではわかりません。「失敗シナリオ分析」では、失敗した年の分布に加えて、失敗シナリオに現れた特徴を5つの観点でタグ付けし、集計しています。
失敗シナリオの5つの特徴
| 特徴 | 判定条件 |
|---|---|
| 開始5年以内の大幅不振 | 運用開始からの累積運用倍率が、最初の5年間のいずれかの年末に0.70以下(=一度でも−30%以下)になった |
| 市場の大幅下落 | それまでの市場最高値から50%以上下落した |
| 10年間の長期低迷 | シナリオ中の任意の連続10年間で、インフレ控除後(実質)の運用リターンが年率0%未満だった |
| 高インフレの継続 | 任意の連続5年間で、取崩額へ反映したインフレ率の平均が「設定平均+設定標準偏差(最低1ポイント)」以上だった |
| 暴落後の回復遅延 | 市場が最高値から20%以上下落した後、8年以上その最高値を回復しなかった |
1つの失敗シナリオに複数の特徴が同時に付くことがあります。どれにも当てはまらない失敗は「上記特徴なし」に分類されます。なお、これらの特徴は失敗の原因を断定するものではなく、失敗シナリオに現れた状態を複数の切り口で整理するためのタグです。
「特徴あり成功率」と「成功率差」の読み方
表の「特徴あり成功率」「特徴なし成功率」は、それぞれ全シナリオ(成功・失敗を含む)のうち、その特徴があった/なかったシナリオだけを取り出して、最終年まで成功した割合を示しています。「成功率差」は特徴あり成功率−特徴なし成功率で、マイナスが大きいほど、その特徴があるシナリオで成功率が低かったことを示します。ただし比較群が30シナリオ未満のときは「参考値」と表示され、精度が落ちる点に注意してください。
1点、読み方に注意が必要です。「10年間の長期低迷」のように一定期間を生き残らないと判定できない特徴は、特徴あり成功率がむしろ高く出ることがあります。これは「その期間まで生き残ったシナリオ」という条件が混ざるためで、長期低迷そのものが有利という意味ではありません。単独の数字ではなく、下の「特徴の組み合わせ」と合わせて読んでください。
特徴の組み合わせと代表シナリオ
「失敗群で多かった特徴の組み合わせ」は、各失敗シナリオに付いた特徴タグの完全一致の組み合わせを集計し、件数の多い上位5件を表示したものです(上位5件だけなので、合計は100%になりません)。さらに上位3組については、抽出候補(各組み合わせにつき最大200件を無作為抽出)の中から、失敗年や各特徴の指標が中央値に近いシナリオを1件ずつ、代表例として表示しています。最悪の1件でも、過去に実際に起きたシナリオでもありません。あくまで、その組み合わせの「中央あたり」がどんな展開だったかを示す例です。
実践:「10年間の長期低迷」を差し引いて失敗を読む
5つの特徴の中で「10年間の長期低迷(任意の10年間の実質年率リターンが0%未満)」は、実際の株式市場の歴史では発生頻度の低い現象です。このツールは年次(1年刻み)でシミュレーションするため、頻度も年次ベースで確認します。米国株式の年次データ(Shiller教授のデータ、出典は記事末尾)で、各年1月時点を起点に10年間の実質(インフレ調整後)リターンを1年ずつずらしながら集計すると、マイナスになった期間はDamodaranデータと同じ1928年以降で86回中13回(15.1%)、1871年まで遡って範囲を広げても143回中17回(11.9%)です。名目(インフレ調整前)リターンで見ると該当期間はさらに絞られ、1928年以降で86回中4回(4.7%)にとどまります。時期としては、1965〜1973年開始のスタグフレーション期と、1999〜2001年開始の「失われた10年」の2つに集中しています(このほか1937年開始の1年だけ、年率−0.16%とほぼゼロの水準でわずかに実質マイナスとなった例外があります)。世界恐慌期は名目リターンこそ大きく落ち込みましたが、当時は物価下落(デフレ)も同時に起きていたため、実質リターンで見るとマイナスになった年はありませんでした。
一方、このシミュレーターは「各年のリターンは独立に発生する」という前提でモンテカルロ計算をしています。相場の持続性(好調・不調が何年も続く傾向)は再現していないため、長期低迷を含む失敗シナリオが、成功率の計算上どれくらいの重みを持っているかは、歴史的な発生頻度とそのまま対応するとは限りません。
実際にこのツールを動かしてみると、失敗シナリオの多くに「10年間の長期低迷」が含まれるケースをよく見かけます。歴史的には約15%程度(1928年以降で86回に13回)しか起きていない現象が失敗の大部分を占めているなら、「この稀な事象を除けば、成功率はもっと高いのではないか」という疑問が自然に浮かびます。
大まかな目安は、今の成功率・失敗率と、特徴比較表の「10年間の長期低迷」の「失敗群内」の割合から計算できます。たとえば成功率85%(失敗率15%)で、失敗のうち70%に長期低迷が含まれていたとします。この長期低迷絡みの失敗をすべて回避できたと仮定すると、失敗率は15%×(1−70%)=4.5%まで下がり、成功率は理論上85%+15%×70%=95.5%まで改善する計算になります。ただし、これはあくまで「長期低迷さえなければ全部成功していた」と仮定した場合の上限の目安であり、実際にそこまで改善するとは限りません(長期低迷と他の特徴が同時に起きているケースもあるためです)。
重要なのは、この上限の数字だけで終わらせず、「長期低迷を除いた残り」の失敗が具体的にどんなケースなのかを確認することです。それが「『10年間の長期低迷』を含まない失敗の上位パターン」という表の役割です。使い方は次の順番です。
- まず、特徴比較表で「10年間の長期低迷」の「失敗群内」の割合を確認する。ここが高ければ、あなたの計画の失敗の多くは、歴史的にはかなり稀な長期停滞シナリオに依存していることになります。
- 次に「『10年間の長期低迷』を含まない失敗の上位パターン」の表を見て、残りの失敗がどんなパターン(開始直後の下落、深い下落、高インフレ、回復遅延、特徴なし)で起きているかを確認する。こちらは、より起こりやすい・注意すべきリスクです。この表の割合も、上の特徴比較表と同じく全失敗シナリオを分母にしています(長期低迷を除いた残りだけを分母にした割合ではありません)。
この2つを見比べると、「めったに起きない極端な長期停滞でしか失敗しない計画」なのか、「もっと日常的に起こりうる下落やインフレでも失敗する計画」なのかを切り分けられます。後者に該当する割合が大きい場合は、2.4の取崩額感応度も参考にしながら、早めの見直しを検討してください。
3. このツールの真の使い方:毎年シミュレーションを回す
ここまでは「初回どう使うか」の説明でした。最後に、このツールの本来の使い方を紹介します。
ポイントは、一度きりで終わらせず、毎年使い続けることです。
やることはシンプル: 毎年、今の投資資産と無リスク資産の残高をそれぞれ入れ直して実行するだけ。それで「今この瞬間の成功率」がわかります。
成功率による行動の目安(ガードレール戦略)
| 成功率 | 状態 | アクション |
|---|---|---|
| 95%超 | 守りすぎ | 取崩し額を増やして生活を豊かにする余地あり |
| 80〜95% | 適正 | FIRE開始時の目標ラインは80〜85%。このまま継続 |
| 80%未満 | 状況確認 | 取崩し額の10%程度の見直しを検討。現金バッファ積み増しや一時的な収入で対応できることが多い |
💡 「成功率80%で大丈夫なの?」 と思うかもしれません。この数字は「一度設定したまま放置した場合」の確率です。毎年シミュレーションを回して早めに手を打てば、残り20%のシナリオの多くは途中で軌道修正できます。
💡 成功率の絶対値より、「条件を変えたときの変化量」で読むのがコツです。取崩し額を変えたら成功率がどう動くか?現金バッファを増やしたら?——その比較がこのツールの本来の価値です。
💡 成功率が80%を下回ったときは、失敗シナリオ分析も一緒に確認してください。失敗の多くが「10年間の長期低迷」のような稀な特徴に依存しているのか、それとももっと起こりやすい下落・インフレでも失敗しているのかで、見直しの緊急度は変わります。
まとめ
| トリニティスタディ(4%ルール) | モンテカルロシミュレーション | |
|---|---|---|
| アプローチ | 過去の歴史をトレース | ランダムな未来を大量生成 |
| 柔軟性 | 固定ルール | 定期的な再計算・戦略更新が可能 |
| 活用場面 | 取崩し率の目安を知る | 自分の条件での成功率を確認する |
まずは自分の数字を入れてシミュレーションを実行してみてください。 現在の計画がどれくらい堅牢か、数字が教えてくれます。
このツールはClaude Codeを使って実装しました。「自分が欲しいツールを自分で作る」という体験は、金融SEとしてやってきたシステム開発の感覚と地続きで、非常に楽しい作業でした。ツール制作の過程については別の記事で紹介予定です。
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参考文献・出典
- Aswath Damodaran, “Historical Returns on Stocks, Bonds and Bills: 1928-2024” (NYU Stern) — 本ツールの期待リターン・標準偏差のデフォルト値の出典
- Robert Shiller, “U.S. Stock Markets 1871-Present and CAPE Ratio”(Yale大学) — 1871年以降の米国株式月次データ・消費者物価指数。本記事の「10年間の実質リターンがマイナスになった期間」の集計に使用
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