年利5%、担保付き、運用期間12か月——不動産クラウドファンディングの募集ページは、いつもとても分かりやすく設計されています。私も、その分かりやすさに惹かれた一人でした。

高配当株を軸にしていても、こういう商品に心が動く瞬間はあると思います。

  • 高配当株の利回り4%より高いのに、値動きがなくて精神的にラクそう
  • 不動産の担保が付いているなら、最悪でも回収できるのではないか
  • 少額から複数案件に分散すれば、リスクはコントロールできるはず

私は2014年から2019年頃まで融資型クラウドファンディング(当時利用していたサービスはmaneo)に投資し、担保付きの案件を選び、分散もしていました。それでも1件のデフォルト——貸し倒れを経験しています。そのとき本当に堪えたのは、失った金額そのものではなく「募集ページに書かれた不動産の評価額を、自分では一切検証できなかった」という事実でした。

損失額は、それまでに受け取った分配金の累計より少なく、致命傷ではありませんでした。にもかかわらず私がこの商品から手を引いたのは、金額の問題ではなく構造の問題に気づいたからです。この記事では、その気づきと、それでも投資するなら最低限やるべき「評価額の自己検証」の手順を書きます。

このデフォルト経験はインデックス投資10年の本音 でも投資遍歴の一部として触れました。本記事ではこの1件だけを掘り下げ、「何が本質的なリスクだったか」「投資するなら何を自分で検証すべきか」を詳しく書きます。

なお、本記事は特定のサービス・事業者を批判したり推奨したりするものではありません。私自身の投資判断の記録と、判断材料の作り方を共有するものとして読んでください。


この記事でわかること

  • 担保付き・案件分散をしていても貸し倒れは起こる、という実体験
  • 損失額より深刻だった「利回りの上限と損失の下限が釣り合わない」という構造
  • 不動産クラウドファンディングの本当のリスクが「評価額の検証不能性」にある理由
  • 公示地価・基準地価・路線価を使って、募集時の土地評価額を自分でざっくり検算する手順
  • 高配当株投資家がこの手の商品と付き合う前に確認すべきこと

「みんなで大家さん」をめぐる報道が突きつけたもの

不動産に少額から投資できるサービスは、いま改めて厳しい目を向けられています。

きっかけの一つが、不動産小口化商品として広く知られていた「みんなで大家さん」をめぐる一連の報道です。運営側の資金繰りや事業の継続性について大規模な問題が報じられ、出資者への償還が問題になっていると伝えられています。係争や当局の対応が続いている案件でもあるため、本記事では個別の是非については踏み込みません。報道されている事実の範囲で受け止めるにとどめます。

ただ、この件が投資家に突きつけている論点は、個社の問題を超えて共通しています。出資者は、自分が出したお金がどの不動産に、いくらの評価で投じられているのかを、事後にしか知り得ないという点です。

ここで一つ整理しておきたいことがあります。「みんなで大家さん」は不動産特定共同事業法にもとづく不動産小口化商品で、私が投資していたmaneoは貸付型(融資型)のクラウドファンディングです。根拠となる法律も、お金の流れも別のサービスであり、同じものとして語ることはできません。

それでも、両者には共通する弱点があります。投資家が判断材料として使えるのは、運営会社が開示すると決めた情報だけという点です。私が経験したデフォルトも、突き詰めればこの一点に行き着きました。

なお、maneoでは2018年に、私が投資していた案件とは別に、資金流用をめぐって関東財務局(金融庁)から行政処分が出された経緯があります。これから書く私自身のデフォルト経験は、通常の貸し倒れであり、この行政処分とは関係がありません。混同を避けるため、あらかじめお伝えしておきます。次章から、その実体験を書きます。

maneoで担保あり・案件分散でも防げなかった1件のデフォルト

実体験からお伝えしたいのは、次の一点です。「不動産の担保が付いている」「案件を分散している」という2つの対策をとっていても、デフォルトは起きました。

なぜかというと、この2つはどちらも「回収できなかったときの被害を小さくする」対策であって、「回収できるかどうか」を見極める対策ではないからです。この違いに、私は損失を出すまで気づいていませんでした。

当時の私の投資条件は、次のとおりです。

項目 当時の状況
実施時期 2014〜2019年頃
投資額 100〜200万円程度
分散 10案件ほどに分けて投資
想定利回り 年5%程度
案件の選び方 不動産の担保が設定されている案件に限定
結果 1案件でデフォルト(約10万円)

日本の個別株で感覚的な売買を繰り返して結果が出なかった時期に、値動きしない資産としてバランスを取りたかった、というのが始めた動機でした。案件を選ぶときも、それなりに真面目にやっていたつもりです。無担保の高利回り案件には手を出さず、不動産の担保が付いているものだけに絞り、1案件あたりの金額も抑えて10案件ほどに分けていました。

それでも、ある案件が返済されませんでした。金額にして約10万円です。

分散していたおかげで、資産全体としては痛くも痒くもない、と言えなくもない規模でした。実際このとき私が学んだ第一の教訓は「分散の重要性は、痛みを伴って初めて腹落ちする」ということで、これは今の高配当株の多銘柄分散にそのまま活きています。1案件に集中していたら、損失は10倍になっていた計算です。

ただ、冷静に数字を並べてみたときに、もっと根本的な問題が見えてきました。

デフォルト額より深刻だった「利益に対する損失の大きさ」

数字を並べて分かったのは、この商品は、うまくいったときの取り分に対して、失敗したときの損失が構造的に大きすぎるということでした。

理由はシンプルで、貸付型クラウドファンディングのリターンには上限があるのに、損失には上限がないからです。株式なら、企業が成長すれば株価も配当も伸びていきますが、この商品でどれだけ順調に運用されても、受け取れるのは約束された利回りまでです。一方で、返ってこなくなったときは元本そのものが毀損します。

実際に、当時の私の条件で計算してみます。

【前提】投資元本150万円・想定利回り年5%(税引前)・分配金は雑所得として源泉徴収20.42%

項目 金額
年間の分配金(税引前) 約7.5万円
年間の分配金(税引後) 約6.0万円
1件のデフォルト額 約10万円
損失が消し飛ばす利益 税引後で約1.7年分

デフォルト額そのものは、それまでに受け取った分配金の累計より少なく、トータルではまだプラスの範囲でした。致命傷ではありません。しかし、たった1件・1回の失敗で、1年半以上かけて積み上げた利益が消えるという事実は、想像していたよりずっと重いものでした。

さらに私が見落としていたのが、税金の非対称性です。分配金は源泉徴収20.42%が引かれますが、これは仮払いにすぎず、雑所得は総合課税のため確定申告で精算されます。給与所得などと合算した課税所得が330万円を超えるゾーンでは所得税率が上がります。住民税と合わせた実効負担が20.42%を超えて、追加納税が発生することもあります。一方、貸し倒れによる元本の毀損は、同じ年の他の雑所得(他案件の分配金など)とは相殺できます。しかし、給与など他の所得区分とは損益通算できず、株式の譲渡損のように翌年以降へ繰り越すこともできません。利益は所得が増えるほど重く課税され、損失は税務上ほとんど救済されないという形になります(税務の取り扱いは個別事情によって異なるため、詳細は国税庁の情報や税務署でご確認ください)。

つまり、この商品のリスクとリターンの形は、こうなっています。

貸付型クラウドファンディングのリターン構造。上振れは年5%が上限で、それ以上は増えない。下振れは下限がなく、元本毀損の可能性がある。上振れしたときの利益には課税され運用期間が終われば終了する一方、下振れしたときの損失は他の所得と通算しにくく回収の見通しは運営会社の対応次第という非対称な構造を示す図解
上振れしたとき 下振れしたとき
年5%が上限。それ以上は増えない 元本が戻らない可能性がある
利益には課税される 損失は他の所得と通算しにくい
運用期間が終われば終了 回収の見通しは運営会社の対応次第

10案件に分散していれば、9件が成功して1件が失敗しても計算上は勝てます。ただ、その勝ち方は「毎年5%を積み上げて、数年に一度それを丸ごと吐き出す」という形になります。私はここで、自分が取っているリスクに、リターンが見合っていないのではないか、と考えるようになりました。

本当の問題は貸し倒れではなく「評価額が検証できない」ことだった

とはいえ、貸し倒れが起きること自体は、投資である以上あり得る話です。私が投資をやめる決め手にしたのは、別のところにありました。

デフォルトした案件を振り返って一番こたえたのは、募集時に示されていた不動産の評価額が、まったくあてにならなかったことです。

なぜそれが致命的かというと、貸付型クラウドファンディングにおいて、担保不動産の評価額は「最悪でもここまでは回収できる」という安全余裕そのものだからです。その数字が信用できないのであれば、担保付きという条件は投資判断の材料になりません。私は「担保があるから安心」と思っていたのですが、正確には「担保があると書いてあるのを読んだ」だけでした。

決定的だったのは、そもそも検証しようがなかった点です。当時の募集ページで開示されていたのは、おおまかな地域と、運営会社が示す評価額まででした。具体的にどこの土地なのかは分からず、評価が妥当かどうかを判断する材料が投資家側に存在しませんでした。

情報の量を整理すると、こういう非対称が生まれていました。

運営会社と投資家の情報の非対称性を示す図解。運営会社は担保不動産の正確な所在地・評価の根拠や鑑定の前提・借り手の事業の実態・回収が難しくなった際の見通しを知っているのに対し、投資家に知らされるのは都道府県やおおまかなエリア・結果としての評価額・事業概要の説明文・事後の報告にとどまることを対比させた図
運営会社が知っていること 投資家が知らされること
担保不動産の正確な所在地 都道府県・おおまかなエリア
評価の根拠・鑑定の前提 結果としての評価額
借り手の事業の実態 事業概要の説明文
回収が難しくなった際の見通し 事後の報告

これは、私が高配当株でやっていることと正反対でした。上場企業なら、有価証券報告書も決算短信も誰でも読めますし、配当性向も自己資本比率も自分で計算できます。判断を間違えたなら、それは自分の分析が甘かったということです。しかし検証できない情報しか渡されない商品では、外れたときに「何を改善すればよかったのか」すら分かりません。

改善のしようがない投資は、経験が積み上がらない投資です。私はこれを理由に、クラウドファンディングから手を引きました。利回りが低いからでも、1件失敗したからでもなく、自分の判断力が向上しない場所にお金を置き続ける意味がない、と考えたためです。

【実践】募集時の評価額は自分で検証する

ここまで書いておいてなんですが、不動産クラウドファンディングをやること自体を否定するつもりはありません。値動きしない資産としての役割はありますし、少額から始められる手軽さも本物です。

ただし、投資するなら、案件の生命線である土地の評価額は自分でも確かめるべきだと考えています。

理由は、そこが唯一、投資家側でも検算できる可能性がある数字だからです。借り手の事業がうまくいくかどうかは外部から判断できませんが、土地の値段には公的な相場データが存在します。そして、公的データと募集ページの数字が大きくかけ離れているなら、その差はどこから来ているのかを説明できて初めて、投資判断の土台ができます。

使えるのは公的な3つの相場データ

住所が丁目まで分からなくても、市区町村レベルまで開示されていれば、おおよその価格帯は推定できます。

データ 何が分かるか 参照先
地価公示 毎年1月1日時点の標準地の価格(円/㎡) 国土交通省 不動産情報ライブラリ
都道府県地価調査(基準地価) 毎年7月1日時点の基準地の価格(円/㎡) 同上
不動産取引価格情報 実際に成約した取引の価格帯 同上
路線価 道路に面する土地の相続税評価額(円/㎡・毎年1月1日時点、7月公表) 国税庁 路線価図・評価倍率表

路線価は地価公示のおおむね8割を目安に設定されています。そのため、路線価しか手がかりがない場合は、路線価を0.8で割ると公示地価の水準に近づけて考えることができます。

5ステップの検算手順

募集時の評価額を自分で検算する5ステップのフロー図。1に募集ページで所在地と土地面積を確認する、2に不動産情報ライブラリで周辺の地価公示・基準地価を調べる、3に取引価格情報で近隣の実際の成約価格帯も見る、4に㎡単価×土地面積でざっくりした土地値を出す、5に募集ページの評価額と比べる、という手順を番号付きカードと矢印でつないだ図解
  1. 募集ページで所在地と土地面積を確認する。市区町村・町名レベルまでで構いません
  2. 不動産情報ライブラリで、その周辺の地価公示・基準地価を調べる。地図上でクリックすると㎡単価が出ます
  3. 取引価格情報で、近隣の実際の成約価格帯も併せて見る。公示地価と実勢価格がずれている地域もあります
  4. ㎡単価×土地面積で、ざっくりした土地値を出す。ここでは細かい精度は不要です
  5. 募集ページの評価額と比べる。2倍・3倍と桁が違うなら、その差の理由を募集資料から読み取れるかを確認します

差が出ること自体は珍しくありません。建物の価値が乗っている場合もあれば、賃料収入から逆算する収益還元法で評価されている場合もありますし、開発後の想定価格で見積もられている場合もあります。問題は差があることではなく、差の理由が説明されているかどうかです。収益還元法や開発後の価格は「前提どおりに進めば」という条件付きの数字であり、事業がつまずいた局面ではその前提ごと崩れます。担保として当てにできるのは、むしろ更地に近い状態での土地値のほうです。

人気案件でも省略しない

そして、これが一番言いたいことです。この検算は、募集開始から数分で満額になるような人気案件でこそ省略すべきではありません。

クリック合戦になる案件では、「調べているうちに埋まってしまう」という焦りが生まれます。しかし、締切に追われて検証を飛ばすというのは、投資判断を運営会社に丸投げしているのと同じことです。私が失敗したのはまさにその状態でした。埋まってしまったなら、その案件は縁がなかったと考えて次を待つ——それくらいの姿勢でちょうどよいと思っています。

なお、市区町村レベルの所在地すら開示されていない案件については、そもそも検算ができません。その場合は「担保の妥当性は検証不能」という前提でリスクを評価する、というのが私の考え方です。

私が今、案件ではなく運営側の株式を持っている理由

クラウドファンディングから撤退したあと、少し引いた視点で気づいたことがあります。

この事業を組成している側は、当然ながら「この商売は儲かる」と判断して運営しているということです。

考えてみれば当たり前の話でした。プラットフォーム側は、投資家から集めた資金を貸し付けたり運用したりする過程で、営業者報酬や手数料を得ます。個別案件がデフォルトすれば信用にはもちろん傷が付きますが、損失の直接的な負担者は出資した投資家です。案件ごとの当たり外れを引き受けているのは投資家側で、プラットフォーム側は取扱高が積み上がるほど収益が伸びる構造になっています。

そこで私自身は今、クラウドファンディングの案件そのものではなく、こうしたサービスを運営する上場企業の株式のほうを保有しています。上場企業であれば、決算資料で取扱高も利益率も自分で確認できますし、判断を間違えたときに検証もできます。私が案件投資に感じていた「検証できない」という不満が、株式にはありません。

念のため書いておくと、これは私個人の判断であって、この考え方をおすすめするものではありません。具体的な銘柄名も書きません。プラットフォーム運営会社の株式には、規制強化・出資者トラブル・取扱高の減少といった固有のリスクがありますし、株式である以上、値動きも当然あります。

ここで共有したいのは銘柄ではなく、「その商品で、誰が確実に利益を取っているのか」を一度考えてみる、という視点のほうです。この問いは、クラウドファンディングに限らず、あらゆる金融商品を見るときに当てはまります。

まとめ:高配当株投資家がクラウドファンディングと付き合う前に

ここまで書いてきたことを、4点に絞って整理します。

  • 担保付き・案件分散でも貸し倒れは起きた。この2つは被害を小さくする対策であって、回収できるかを見極める対策ではない
  • 損失額より、利益と損失の釣り合わなさのほうが問題だった。上限は年5%、下限は元本毀損。しかも損失は税務上ほとんど救済されない
  • 本質的なリスクは、募集時の評価額を投資家が検証できないことにある。改善できない失敗からは、経験が積み上がらない
  • やるなら土地の評価額は自分で検算する。市区町村レベルの住所が分かれば、公示地価・基準地価・路線価でおおよその価格帯は推定できる。人気案件でも省略しない

高配当株を軸にしている方には、利回りの数字だけを高配当株と並べて比べないことをおすすめします。同じ「年5%」でも、自分で検証できる5%と、運営会社を信じるしかない5%は、まったく別の商品です。

まずやってみてほしいのは、気になっている案件の所在地を国土交通省の不動産情報ライブラリ で開いて、周辺の地価公示を見てみることです。5分で終わりますし、その5分で「調べられない案件」がどれだけあるかも見えてきます。

そのうえで「検証できる投資対象に絞りたい」と感じた方は、私が高配当株の銘柄をどう選んでいるかをまとめた高配当株の銘柄選定基準 も参考になるはずです。ご自身の判断軸づくりに役立てていただければ幸いです。


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参考文献・出典

  • 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示・都道府県地価調査(基準地価)・不動産取引価格情報を地図上で確認できる公的サイト
  • 国税庁 路線価図・評価倍率表 — 相続税評価の基準となる路線価。地価公示のおおむね8割が目安
  • 金融庁 — 貸付型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)に関する注意喚起・登録業者情報
  • 国土交通省 — 不動産特定共同事業法にもとづく事業者・制度の情報

本記事は筆者個人の投資体験と、執筆時点で公開されている情報にもとづいて執筆しています。特定のサービス・事業者・銘柄の推奨や批判を目的とするものではありません。制度や各社のサービス内容は変更される場合があるため、最新情報は必ず公式の情報源でご確認ください。投資は元本保証ではなく、将来の運用成果を約束するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。